時を越えるトランク:革職人の挑戦とこだわり - 日本で唯一のレザートランク職人・北澤 湧氏にインタビュー(前編)
日本で唯一のレザートランク職人として活躍する『Trunk by Kitazawa』・北澤 湧さん。彼のものづくりの原点や、日本とフィレンツェで培った革製品づくりの美学、そして自身が手がけるレザートランクに込める思いについて語っていただきました。 ── まずはじめに、ものづくりを始めたきっかけを教えてください。 高校時代にハンズで手に入れた革の端切れを使ってキーケースを手作りしたのが始まりです。そのとき、革に残る傷跡やシワを見て、生き物としての命の重みを感じました。だから傷を隠してしまうのではなく、逆にデザインに取り入れてみようと考えたんです。それが革に対する敬意の始まりでした。当時は高校生で経済的に余裕もなかったので、友人や知人に手作りの革小物をプレゼントしながら技術を磨いていきました。 最近のオーダー品。革の傷を生かしたデザインの「シャンパントランク」。特別な一本を運ぶのにふさわしい存在感。 ── レザートランク職人を志すに至った転機について教えてください。 大学時代、イタリア・フィレンツェでの工房で学んだ経験が大きな転機でした。大学の近くのバーでアルバイトしていたときに、偶然大学の理事長と出会い、夢について話す機会を得たんです。その話をきっかけに、理事長の勧めでイタリア留学が実現しました。フィレンツェの工房で一年間学んだ経験は、イタリアの職人たちが持つ技術とその仕事に向き合う姿勢に大きな影響を受けました。 ── イタリアの職人文化から受けた影響についてもお聞かせください。 イタリアの職人は「アルチザン(職人)」として尊重され、誇りを持って仕事に向き合っています。その文化には感銘を受けました。特に、フィレンツェで出会った「Cisei (シセイ)」というブランドの職人たちから技術を学び、彼らの姿勢が今の自分を形成する大きな要素となっています。 ── イギリスのメディア「Monocle (モノクル)」とのコラボレーションについても興味深いですね。 フィレンツェで築いた人脈を通じて「モノクル」のプロダクトを手掛ける機会がありました。あるデザイナーから依頼されたパソコンケースが、「モノクル」編集長タイラー・ブリュレの目に留まり、プロダクト制作の依頼を受けることになったんです。そこから、日本の富ヶ谷にオープンする「モノクル」ショップ向けの製品や百貨店のプライベートブランドの革製品など、様々なプロジェクトに携わるようになりました。 ── ルイ・ヴィトンでの経験がどのように影響したかも気になります。 革製品についてさらに深く知るため、ルイ・ヴィトンに入社して、そこでトランクと出会いました。ルイ・ヴィトンのトランクは歴史と伝統が詰まっていて、その技術を学ぶことができたのは貴重な経験でした。特に心を動かされたのは、トランクは持ち主の人生や大切なストーリーが詰まった「物語の器」ということです。 例えば、あるお客様はお子さんの誕生を記念して、初めての靴や思い出の品をトランクに詰めて、成人の日にそのトランクをお子さんに贈りたいと話されていました。また、別のご婦人は、大切にしてきた宝石や時計、手紙など人生の思い出をトランクに収め、お子さんやお孫さんに手渡したいと。 自分のためではなく、誰かを思って、その人にとっての大切なものを少しずつ集めて、次の人に繋いでいく。そういう行為って豊かですよね。こうしたお客様一人ひとりの特別なストーリーを聞くことで、トランクはただの旅行鞄ではなく、持ち主の想いや記憶を宿す特別な器なんだと強く感じました。 だから、トランクは1人だけが使うものではなく、何世代にも渡って受け継がれていくことを前提に作られているんです。僕がルイ・ヴィトンの大先輩から教わったトランクの魅力って、まさにこうした思いを繋いでいくというところなんですよね。 家族や個人の物語を次世代へと紡ぐ「物語の器」 ──...