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Vol.3 ミラノ デザインウィーク 2026 レポートノート -  12枚のタペストリーが紡ぐ、グッチ 105年の軌跡

Vol.3 ミラノ デザインウィーク 2026 レポートノート - 12枚のタペストリーが紡ぐ、グッチ 105年の軌跡

【イタリアでグッと来た、暮らしをハッピーに彩るコトやモノ】 Vol.3 イタリアに息づく、日常の何気ない瞬間を楽しむというライフスタイルから、特別なことではないけれど日々を少しハッピーに彩るコトやモノをご紹介している連載のVol.3では、ミラノで開催された「ミラノ デザインウィーク」のレポートです。会期はすでに終了していますが、イタリアで心を動かされた出来事として、アーカイブとして綴ります。   「最後の晩餐」のあるサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会 ミラノがデザインとアートで包まれる 4月のイタリアは、太陽の光がいっそう眩しく、街全体がワントーン明るく感じられる季節。今年はちょうど良いタイミングが重なり、4月21日から始まったミラノ デザインウィークを訪れることができました。 「ミラノ デザインウィーク」は、毎年4月にミラノで開かれる世界最大級のデザインの祭典です。ミラノ郊外の見本市会場で行われる「サローネ・デル・モービレ(ミラノサローネ)」と、市内各所で展開される「フォーリサローネ」の2つで構成され、期間中は街全体がデザイン一色に染まります。 展示の対象は家具にとどまらず、ファッション、自動車、ライフスタイルなど多岐にわたり、世界180カ国以上から建築家やインテリアデザイナー、バイヤー、観光客が集結。15世紀の修道院や貴族の邸宅といった歴史的建築が展示空間として活用されるのもイタリアならではで、街を歩くだけでまるで美術館の中にいるような感覚に包まれます。 今年は期間中、世界中から約30万人がミラノに集まったそうです。その中から、訪れたエキシビションの内容をお伝えします。   ミラノの"芸術の中心地"ブレラ   Audi × Zaha Hadid Architects 105年の軌跡を織り上げる「Gucci Memorial」 グッチのアーティスティック・ディレクター、デムナによるキュレーションで構成された今回のエキシビション「Gucci Memorial-グッチメモリアル」は、105年にわたるブランドの歴史を象徴的に再構築し、多面的な進化とクリエイティブの軌跡を提示するもの。会場となったのは、ミラノ中心部に位置する歴史的建造物、サン・シンプリチャーノ大回廊(Piazza Paolo VI, 6)。長い列を待ち、入場できたその空間にはグッチの象徴であるフローラプリントがリアルに再現され、花々が咲き誇るボタニカルガーデンのような世界が広がっていました。その美しさは圧倒的で、ブランドの世界観を立体的に体験できる場となっていました。 また、エントランスにはオリジナルの自動販売機が設置され、入場コードをかざすとオリジナルドリンクが出てくる仕掛けもありました。こうした伝統と革新が同居する演出の幕開けから、時代を牽引してきたグッチのアイデンティティーが感じられました。   ブランドの105年の軌跡を紡ぐインスタレーションは、フィレンツェに古くから伝わるテキスタイル工芸をルーツとした12枚のタペストリーで構成されています。物語は、創業者グッチオ・グッチがロンドンのザ・サヴォイで過ごしていた時期を描いた、トラベルケースに手を添えている印象的なタペストリー「The Gift」から始まります。   歴代デザイナーの歩みを象徴的なシーンとして織り込んだタペストリーの数々には、ブランドへの敬意が感じられ、同時にデムナの視点による再解釈が静かに息づいています。伝統と革新が交差するその表現は、グッチというブランドの奥行きを改めて認識させるものでした。  ...
葉山の幸福なデスティネーション。オーナー桐島ローランドさんが語る偶然と縁が導く「Felicity」での新たな挑戦

葉山の幸福なデスティネーション。オーナー桐島ローランドさんが語る偶然と縁が導く「Felicity」での新たな挑戦

カメラ、バイク、CG。常にカルチャーの最前線を「体当たり」で切り拓き、趣味を究めて仕事にしてきた人、桐島ローランドさん。そんな彼がいま、情熱のすべてを注いでいるのが、神奈川県・葉山のロードサイドに佇むカフェ『Felicity(フェリシティ)』だ。 「縁に導かれた偶然で」と笑うローリーさん。ニューヨーク、東京、そして世界中の砂漠を走り抜けてきた彼が、なぜいま、葉山でコーヒーを焙煎しているのか。その経緯を辿ると、そこには「縁」という名の、不思議な一本の線がつながっていた。     葉山への移住、そしてバイクとつながる再会     移住のきっかけは、コロナ禍という予期せぬ天災だった。 「もともとは息子を連れてアメリカに住むつもりで家も買っていたんです。でも、パンデミックで計画が白紙になってしまった」。 導かれるように姉の桐島カレンさんが住む葉山へと拠点を移したローリーさん。当初はアメリカから送り返される荷物を保管する倉庫を探していた。そこで出会ったのが、この物件だった。 そこは、2023年まで40年近く続いた伝説的なカスタムバイクショップ『幸福商會』の跡地。70年代、中国製の「幸福」というヴィンテージルックなバイクの輸入から始まり、後に英国車カスタムの聖地となった場所だ。 昔からトライアンフなどの古いバイクが好きだったローリーさん。『幸福商會』が本牧にあったことは知っていたが、移転先が葉山だとは知らなかったのだという。 この場所を訪れた瞬間、「倉庫にするにはあまりに惜しい空間」だと感じた。この場をいかにして活かすかを考えた結果、自分で購入しカフェにするという決断に至ったのだと。   幸福を意味する英語「Felicity」を店名に冠すことで、かつての聖地への敬意を払い、ローリーさんの新しい挑戦が始まった。 コーヒーに宿る「現像」の再現性 「カフェをやりたかったわけではない」と言いながらも、一度足を踏み入れれば徹底的に突き詰めるのがローリー流だ。そのこだわりは、カフェの心臓部である焙煎機に現れている。導入したのは、コーヒー界のロールスロイスと称されるドイツ製の銘機「Probat(プロバット)」。 「コーヒーをやっている人がみんな夢見るマシンです。思い切って現金で買いました」というエピソードに、並々ならぬ覚悟が滲む。   ローリーさんにとって、焙煎は「写真の現像」と同じ感覚だという。「カメラマンは温度や時間にシビア。焙煎も現像や料理と似ていて、データをもとに味を追求していく。僕のマシンはデータドリブンで、一度成功した焙煎カーブを完璧に再現できる。でも、全く同じ数値なのに味が変わることがある。そこが魔物であり、ハマる理由なんです」とコーヒーについて語るときのローリーさんは少年のように眩しい表情をする。 現在、11種類の豆を自ら焙煎。とりわけ力を入れているのがブラジルだ。高品質なハンドピックの豆を、素材の甘みが最も引き立つ「シティロースト」で仕上げる。   エスプレッソマシンはイタリア最高峰といわれるヴィクトリア・アーデュイノ社のブラックイーグル・マーヴェリックを導入し、こだわりの一杯を提供 「良い豆をダークにしすぎるのはもったいない。芯まで熱を入れ、いかにえぐみを出さずに甘みを抽出するかを研究している」。その語り口は、職人のそれである。     デスティネーションとしてのキラーコンテンツ   駅から遠く、海も見えない。そんなロードサイドの立地で、いかに人を呼ぶか。ローリーさんが仕掛けたのは、単なる飲食店を超えた「デスティネーション(目的地)」としての体験だ。   試行錯誤を重ねて編み出したレシピとこだわりの材料を使った定番メニュー「サーモンワッフル」。 新商品のラズベリーデニッシュラテ。   「わざわざここに来る理由=キラーコンテンツが必要なんです。火曜の朝はピラティスをやったり、ゲスト講師をお呼びして、写真講座や焙煎教室、編み物教室、個展もやっています。やるなら徹底的に一番いいものを集めています」  ...
茶香アートの革命児・緑川雄太郎さんに聞く、ギフトの思い出

茶香アートの革命児・緑川雄太郎さんに聞く、ギフトの思い出

コンテンポラリーアートの分野で、さまざまな展覧会を手がけるアートディレクターであり、近年は茶香人としてアートとお茶の融合を目指す緑川雄太郎さん。「ギフトは時として、ネクストレベルに引き上げるためのインスピレーションをくれる」と語ります。自身の活動の軌跡を紐解きながら、折々でもらったギフトとそれにより芽生えたインスピレーションについて語ってもらいました。     虚無から救い出してくれたアートとお茶     現在、福島県双葉郡にあるミュージアム「MOCAF(MUSEUM OF CONTEMPORARY ART FUKUSHIMA)」のディレクターを務めている緑川さん。原発から10km圏内という特殊な立地から、「ART AFTER HUMAN(人類以降の芸術)」をテーマに探求を続ける傍ら、近年は中国茶と香りを融合させた新しいアートディレクションにも取り組んでいる。 そんな緑川さんがお茶の世界に足を踏み入れたきっかけは、意外にも「虚無感」だった。     緑川さん特製のお茶セット。茶の湯の代名詞である「侘び寂び」。しかし、ガラスの茶器を手にした緑川さんは、「これは『冷え枯れる』と称される侘びではないな」と直感したという。千利休以降の「侘茶」という大きな潮流とは異なる、台湾茶や中国茶に感じる瑞々しさ。「これは浮茶だ、と。これこそが自分が求めていたものだと、すとんと腑に落ちたんです」と緑川さんは浮茶が生まれた瞬間を振り返る。 社会が変わっていく中で、コンテンポラリーアートの意義も変化し、『自分に何ができるんだろう』と絶望とは違う虚無を感じていた時期がありました。その最中、なぜかチャーハンばかりを食べていて(笑)。そんな私を見かねた友人が、『体に悪いから烏龍茶でも飲みなよ』と勧めてくれたんです。言われるがままに飲んでみると、体が温まり、心が解けていくような楽しさを感じました。そのとき「香りを聞く」ための器、聞香杯(もんこうはい)の存在を知り、かつて展覧会で触れた「香りの面白さ」と結びついたことで、一気にその世界へ引き込まれていったのだそう。     「アートパフューマリー」をテーマに緑川氏がキュレーションした展覧会『AP』の会場風景(2023年)   お茶の歴史や思想を紐解くと、英語圏をベースにしたアートの世界とは全く異なる景色が見えてきたと語る緑川さん。振り返ると、かつてニューヨークでコンテンポラリーアートに出会った際も、同じような虚無の中にいたのだ、と。 「何かを変えたいという強い欲望が虚無を呼ぶのかもしれません。以前、ChatGPTを使っていた時、虚無を「creative exhaustion(創造的疲労)」と翻訳してくれたのですが、非常に納得がいきました。そういう時を経てこそ、ネクストレベルに行ける。アートやお茶は、虚無を別の方向に変えるきっかけになるのだと感じています」     この日の取材はニッチフレグランスの専門店「NOSE SHOP」がプロデュースする、嗅覚と味覚が織りなす新しい体験のバー「はな( @hana_noseshop )」で行った。香水とドリンクのペアリングは、ローゼルやハイビスカスティーが香る「りんごのハイボール」と香水「1986 エクレティック/Les Bains Guerbois」。  ...
レコードを掘るように、器を掘る。ストリート育ちのカルチャー・ディガー 坂野高広さんと、ディープアジアの話

レコードを掘るように、器を掘る。ストリート育ちのカルチャー・ディガー 坂野高広さんと、ディープアジアの話

ストリート、音楽、デザイン。ずっと西洋カルチャーのど真ん中で生きてきた人が、40代で突然アジアにハマる。しかも、山岳民族の刺繍とか、70年代のベトナムの庶民のお皿とか。「自分でも、びっくりです」そう笑いながら話すのは、アジアンヴィンテージストア〈tay〉と〈333〉を手がける坂野高広さん。音楽とデザインの最前線を走ってきた彼が、なぜいま、アジアの手仕事を掘り続けているのか。その理由を辿っていくと、意外なほど一本の線で、すべてがつながっていた。 ニューヨーク、音楽レーベル、そして中目黒 坂野さんは、ニューヨークのスクール・オブ・ヴィジュアル・アーツ出身。キース・ヘリングやKAWSも在籍していた、あのSVAだ。卒業後は、DJ系やジャズラウンジを手がけるイタリアのレコード会社IRMA RECORDSのNY支社で働く。28歳頃に帰国後、日本にIRMA RECORDSの拠点を立ち上げ、音楽レーベルとして活動を継続。音楽制作だけでなく、ライブの演出、Tシャツ制作、ヴィンテージポスターの販売など、音楽を起点にしたカルチャー全体の編集へと表現は拡張し、中目黒に拠点を移した頃には、仕事の8割がデザインに。 現在は音楽部門を分社化し、初台のオフィスがデザインとリテールの基地になっている。 アジアンカルチャーとの出会い 転機は40歳前後。デザイナー仲間と初めて訪れたベトナムだった。 リゾートや観光とは異なる、街中で息づく手仕事。器、刺繍、銀細工。それらは「工藝品」ではなく、人々の生活の中から必然的に生まれたものだった。 とりわけ心を掴まれたのが、1970年代まで使われていた庶民の器「ソンベ焼」。ちょっとフレンチコロニアルの感じがあったり、中国の影響とか、ちょっと雑多で。 戦争と近代化によって姿を消し、アンティークとしても評価されていなかったその存在は、レコードカルチャーでいう「Rare Groove」そのものだった。 当時はあまり評価されていなかったけれど、今の視点で見ると、すごく美しい。しかも、もう窯元もなくなっていて、どんどん消えていく。 「これ、掘らなきゃいけないやつだ!って」この“掘る感覚”が、坂野さんを一気にアジアへと引き込んでいく。   1970年代まで、ベトナムの庶民が日常使いしていたソンベ焼。   ベトナム北部の人々の生活を彩ってきた、40年ほど前のオールドバッチャン焼。 333|モダンアジアのエントリーポイント 「男の自分がここまでハマるなら、これは伝えられるんじゃないかって思った。かわいいだけじゃない何かがあるな、って」「当時(2017年頃)のアジア雑貨店って、カラフルでチープで安い、みたいなのが多かったじゃないですか。そうじゃない見せ方、絶対できると思ったんですよ」 そうして生まれたのが、学芸大学の〈333(バーバーバー)〉。 現在のベトナムやタイの若いクリエイターたちは、驚くほど自由で、感覚がとにかく尖っている。混沌と洗練が同時に存在するエネルギーは、ストリートカルチャーそのもの。 「心がヒリヒリするようなやつをやりたいなと思って」 〈333〉は、その熱量を、日本で伝える場所でもある。   ベトナム語やタイ語デザインのオリジナルTシャツもあれば、若手クリエイターの雑貨もある。混沌と洗練が同時に存在する、〈333〉の空気感。 Tay|ルーツを掘る場所 〈333〉を続けるなかで、知識は増え、見える景色は確実に変わっていく。そして次第に、もっとルーツを見せる場所が必要だと感じるようになる。 〈tay〉はベトナム語で「手」という意味。手で作られ、手から手へ受け継がれてきたもの。 山岳民族の手刺繍、銀の装身具、ヴィンテージの器、民族衣装の一点ものなど、〈tay〉ではルーツとヴィンテージ性に特化したアイテムを扱っている。 「モダンなフォークの見せ方をしたかったんです」 内装はミニマル。コンクリートむき出しのインダストリアルな都会の箱に、フォークロアを詰め込む。 什器は、フランスのアンティークと昭和初期や大正期の日本の家具。西欧、東南アジアと日本の民芸文化が混ざり合う実に現代的な空間だ。 ムオン族の手びねりで作る壺、ホレ族の手彫り像の置物やタイ族の木製カウベル、ミャンマーの竹細工。  ...
香りを飲む。フレグランス思考で構築されたバー「はな」とは?

香りを飲む。フレグランス思考で構築されたバー「はな」とは?

横丁に潜む、1.5坪の隠れ家 再開発の足音が止まらない街、渋谷。その喧騒からほんの数歩奥へ入ると、細い路地と赤提灯の時間がいまも息づく場所がある。渋谷のんべい横丁。その一角に、カルチャー好きほど反応してしまう一軒がある。名前は「はな」。 手がけたのは、ニッチフレグランスの世界を日本に紹介してきたNOSE SHOP。ここは、“あなたの鼻が主役”のバーだ。   グラフィックデザインを手がけたのは、長嶋りかこ氏。目に見えない香りを、視覚へと美しく翻訳している。 香水的思考で構築された一杯 この店の面白さは、香水の世界で用いられる「ノート(香調)」の概念を、そのままグラスの中に落とし込んでいるところにある。 トップノートの軽やかな立ち上がり。ボディノートの丸み。ラストノートの静かな余韻。 香りと味わいが時間差でほどけていく。花や柑橘、ハーブ、スパイス──素材のニュアンスが繊細に重なり、ひと口ごとに表情を変えていく。 メニュー監修は、mitosaya薬草園蒸留所代表の江口宏志氏。南ドイツで蒸留を学び、千葉県大多喜町で果樹や薬草を原料に蒸留酒やリキュールを手がけてきた彼の哲学が、グラスの中に息づく。自然の個性を尊重した味わいは、どこか詩的で、身体の奥へとゆっくり広がっていく。   『マッチャ・トロピカル』バナナやマンゴー、ドラゴンフルーツを使ったトロピカルな味わいが特徴のオリジナルのリキュール「TROPICAL NOTE」に抹茶を合わせた深みある一杯。 ワインのセレクトは、The Liquid代表取締役の阿部 祥大氏。たとえば《Rose 2017 / BETWEEN FIVE BELLS 2015(オーストラリア)》のように、香りと余韻にフォーカスした一本が並ぶ。※画像はイメージです。   ネパールの伝統的な家庭菓子『マサララドゥ』などをベースにした、ペアリングのお菓子も魅力的。「ツルミ製菓」主宰の 鶴見 昂氏(@hepopec)がコーディネートするペアリング菓子が、香りのレイヤーをさらに立体的にする。※画像はイメージです。   小さな空間、広がる感覚 世界のオルファクティブ・カルチャーを背景に持ちながら、舞台は渋谷の横丁。わずか1.5坪。それでも不思議と圧迫感はない。 店舗デザインを手がけたのは、元木大輔氏(DDAA / DDAA LABO代表)。横丁の歴史に最大限の敬意を払いながら、かつてこの場所にあった名店の素材を活かし、新旧の記憶が混ざり合う空間へと再構築。香りと会話に自然と集中できる、研ぎ澄まされた設計だ。  ...
香りの伝道師・中森友喜さんに聞く、ギフトの思い出

香りの伝道師・中森友喜さんに聞く、ギフトの思い出

日本初のニッチフレグランス専門店「NOSE SHOP」代表の中森友喜さん。「香りは過去の思い出を呼び起こすタイムマシンになりうる」と語ります。その言葉を手がかりに、香りとギフトにまつわる思い出をたどりました。ニッチフレグランスの魅力と香りをギフトで贈る時のヒントについても教えてもらいました。 気遣いが伝わるギフトが、記憶に残る   ニッチフレグランスを専門に扱うセレクトショップ「NOSE SHOP」。1月9日にオープンした「NOSE SHOP SALON」を訪ねると、そこにはアートの展覧会のように美しいボトルがずらりと並んでいた。ニッチフレグランスとは、大手ブランドが展開するマス向け香水とは異なり、調香師の芸術性や強い世界観を重視し、少量生産でつくられる個性的な香水のことだという。 「ニッチフレグランスの根底には、大手ブランドに対するカウンターカルチャー的な発想があります。多くの作り手は、“フレグランス”というキャンバスの中で“空き地”を探すような感覚でクリエイションを行っています。『300本しか作りません』ということを平気でやる世界なので、どうしても希少で高価になりがちです。ただ、あえて手に取りやすい価格帯で展開するブランドもあります。それもまた、キャンバスの中の空き地を狙うための一つの戦略です。 それぞれの作り手が『誰もやっていないことをやろう』という気持ちで生み出している。それが、ニッチフレグランスです。」     一時は“香水砂漠”と呼ばれるほどだった日本だが、最近は20代のZ世代、α世代を中心に、自分のアイデンティティの一つとして、香水が注目されているのだそう。 「20代のお客様に聞くと、メイクや服は誰かとかぶってもいいけど、フレグランスだけはかぶりたくないという方が多い印象です。『いい香りだね』と友達に聞かれても、ブランド名だけ答えて、細かい名前までは教えないほど。そんなふうに若い方にとって、香水はアイデンティティの一部となってきているようです。 ‎‎ ニッチフレグランスは、香り、コンセプト、ビジュアルが一体化したアート活動とも捉えられるので、それが自分の個性を大切にしたいと思う方々に受け入れられているのかもしれない。強い個性のあるニッチフレグランスだからこそ、香りがお守りになり、自分を表現する一つのツールになっているのだと思います」‎‎   ローマ教皇の祭服を手がけることでも名高いキリスト教の祭服専門のアトリエ·LAVSでオーナー兼デザイナーを務める奇才フィリッポ·ソルチネッリのフレグランス。もともと教会に祭服を納品するときに香りでラッピングする習慣から生まれたブランド。表面の布が全部つながっており、同梱されたハサミで開封する「ネ イル ジョルノ ネ ローラ」(写真左下から2番目)など。香りだけでなくビジュアルも含めた全体感でコンセプトを一貫させるのがニッチフレグランスの特徴の一つ。   コンセプトがはっきりしているニッチフレグランスゆえにとっつきにくい香りをイメージされがちだが、意外にもそんなことはないのだそう。日本の茶道をモチーフにした「ザタイム/Thoo」(写真左)、シルクロードを通ってトルコに献上された中国産の烏龍茶をイメージした「ウーロンチャ/Nishane」(写真右)など、お茶系の香りは、香水に馴染みがない人でもつけやすい。     記憶に残る3つのギフト   これまでにもらったギフトの中で、特に印象に残っているものが3つあるという。 ひとつ目は、香水業界の知人から贈られたクラフトジンだ。   ギフトでいただき、気に入って同じジンを再度購入したもの。   「スペインに住んでいる香水業界の方で、カンヌで会ったときに『これ絶対好きだと思うから』って、ジンをくれたんです。以前、僕が『ジンが好き』と話したことを覚えていてくれて。何気ない会話だったのに、それを覚えてくれていたこと自体がすごくうれしかったですね。こんな人になれたらいいなと思いました。 それは2019年にエストニアで初めてつくられたクラフトジンだったのですが、最近ジンをいろいろ飲んでいる中でもかなり好みでした。普段はトニックで飲むことが多いんですが、これは『ソーダで飲むとおいしい』と言われていて。実際にソーダで割ると、ジュニパーベリー特有のソーピーさが抑えられて、すごく華やか。ハーブの香りはすっきりしているのに、飲んでいくと複雑に変わっていく感じが心良いジンでした」...
“今の自分”と向き合う香りの時間。完全予約制「NOSE SHOP SALON」が表参道に誕生

“今の自分”と向き合う香りの時間。完全予約制「NOSE SHOP SALON」が表参道に誕生

ニッチフレグランス専門店として、日本の香水シーンを切り拓いてきたNOSE SHOP(ノーズショップ) が、2026年1月9日(金)、東京・表参道に完全予約制のカウンセリングサロン「NOSE SHOP SALON(ノーズショップ サロン)」をオープンする。 日本に“ニッチフレグランス”という選択肢を根づかせてきた彼らが、新たに提案するのは、香水を「選ぶ」ための場所ではなく、香りと出会うための時間そのものだ。     1組限定、香りのためのプライベートサロン NOSE SHOP SALONは、1回1組限定の完全予約制。扉の向こうに広がるのは、表参道の喧騒から切り離された静かな空間。ゆったりとしたソファに身を預け、専門スタッフと1対1で行うパーソナルカウンセリングが始まる。 独自のヒアリングシートをもとに、ライフスタイルや価値観、香りをまといたいシーンまでを丁寧に紐解きながら、“今のあなた”に響く一本を探していく。 ムエット(試香紙)で、肌で、時間をかけて試す。そのプロセスすべてが、このサロン体験を形づくっていく。   香りに向き合う「時間」をデザインする 「NOSE SHOPはこれまで、誰もが香りに出会える“入口”をつくってきました」 そう語るのは、NOSE SHOP代表の中森友喜氏。“香水砂漠”とも言われてきた日本において、ニッチフレグランスの文化を切り拓いてきた人物だ。 「選択肢が増えたいま、『落ち着いて比べて、納得して決めたい』という声は確実に増えています」 完全予約制・1回1組限定という形式は、効率よりも、香りと人がまっすぐ対話する時間を優先するための選択。 「ぜひ、ご自身の鼻を信じて、いまのあなたに似合う一本を見つけに来てください」 香水を選ぶという行為が、いつしか自分自身を知る行為へと変わっていく。このサロンが単なる新拠点ではなく、感性のための場であることを物語っている。   感性と言葉を磨いた、香りのプロフェッショナルとともに カウンセリングを担当するのは、パリ発のフレグランススクール「サンキエムソンス ジャポン(Cinquième Sens Japon)」と連携した研修を受けた、選抜スタッフ。 香りを感じるだけでなく、それを言葉にし、相手の感性に翻訳する力まで磨かれたプロフェッショナルが、ひとりひとりに寄り添う。     店頭で試して、香水は後日自宅へ...
Vol.2 ホリデーシーズンは、彩り豊かなターボロで

Vol.2 ホリデーシーズンは、彩り豊かなターボロで

【イタリアでグッと来た、暮らしをハッピーに彩るコトやモノ】 Vol.2 今年も師走を迎えました。先月から始まった連載では、イタリアに息づく、日常の何気ない瞬間を楽しむというライフスタイルから、特別なことではないけれど日々を少しハッピーに彩るコトやモノをご紹介しています。 Vol.2では、イタリア人にとって家族と過ごす最大のイベント「Natale=ナターレ(クリスマス)」をテーマに、食卓=ターヴォロを囲むストーリーと、この季節ならではのアイテムをご紹介させてください。 ナターレでは、マンマやノンナ(祖母)が受け継いできたナターレ料理をファミッリアで囲むのが定番です。12月23日の夕方から26日頃まではスーパーやレストランも閉まり、数日前からメルカートやスーパーは料理の準備をする人々で賑わいます。その光景はまるで日本のお正月前のようです。 料理はもちろんですが、私が毎年楽しみにしているのはターボロのセッティングです。イタリアの暮らしには自然にカラーコーディネートが息づいていて、その日に纏うスカーフとネイル、ベルトと靴の組み合わせなどファッションはもちろんのこと、インテリアやギフトのラッピングまで、日常が彩られています。 そのひとつがターボロのクロス=Tovaglia(トヴァリア)。どの家庭にも何種類ものトヴァリアがあり、季節や料理に合わせて選ばれます。家族で囲むターヴォロは、トヴァリアによってさらに華やぎ、日々の食事の時間をより豊かにしてくれるのです。     トヴァリアは色の美しさだけでなく、家族の歴史を紡ぎながら受け継がれていく存在です。レースや刺繍が施されたヴィンテージ感ある一枚を前にすれば、どのファミリアも「ノンナの時代からずっと」と微笑みます。イタリアの暮らしにおいて、トヴァリアはなくてはならない宝物なのです。   ノンナから受け継がれているとトヴァリアとトヴァリオーロ   イタリア・モデナでの暮らしの中で、私もマンマに倣い、季節やオケージョンごとにトヴァリアを楽しんでいました。 その日の気分や料理に寄り添う一枚が、ターボロで食事を囲む時間をさらに特別なひとときへと導いてくれるのです。そして今回は、モデナで通い続けたキッチングッズのお店で出会った、この季節ならではのトヴァリアをご紹介します。 昔ながらの専門店。その名も「POPOLI(ポポリ)」――響きもどこかカリーナ(可愛い)で心惹かれていました。 そんな大好きなお店で見つけたのが、イタリアらしい色彩にあふれるトヴァリア。今回はその2タイプをご紹介します。       ホリデーシーズンに相応しい、赤色を基調に花を描いた一枚。繊細に描かれた花模様は、ナターレのお料理にも、お正月料理の数々にもベストマッチ。華やかなターボロを演出する一枚に。 『TOGNANA』/ Red Ornament   果物をモチーフとしながらも、イタリアならではのグラフィックの一枚。ファミリアや友人と、カジュアルなディナーに会話に華を添えてくれます。 『TOGNANA 』/Florence   集いのひとときが増えるこれからの季節。色鮮やかなターボロで、心温まる時間を過ごしてみませんか。  
テーブルの名脇役たち。料理上手なあの人に贈る、“魔法の一滴” 調味料ギフト2選

テーブルの名脇役たち。料理上手なあの人に贈る、“魔法の一滴” 調味料ギフト2選

  料理が上手な人って、たいてい調味料にもこだわっている。 塩とかオイルとか、ちょっとした“最後の一滴”こそが料理のセンスを決めるのを知っている人。 そんな「味の決め手」を知っている、お料理上手なあの人に贈りたいのが、この魔法の一滴。 イタリアが誇るふたつの名産地から届いた、とびきり上質な“調味料の名脇役たち”だ。 *** 搾りたてを、贈ろう。 - ZAHARA(ザハラ)/エキストラバージンオリーブオイル〈2025 NOVELLO〉 「今年のオイル、もう届いた?」そんな会話が聞こえてきそうな、搾りたての季節。シチリアの豊かな大地から届くZAHARA(ザハラ)のノヴェッロは、まさに“オリーブのフレッシュジュース”。 樹齢50年を超えるオリーブの木々から、手摘みで収穫したトンダ・イブレア種を100%使用。収穫からわずか数時間で圧搾することで、青々しい香りと、ナッツのようなコクをそのまま閉じ込めている。 グリーントマトを思わせる爽やかさ、ほんのりビターな余韻。まさに搾りたての鮮烈な風味。 トーストしたバゲットにそのまま垂らしてもいいし、グリル野菜やサラダ、ゆでたじゃがいもにひとまわしすれば、たちまち食卓が南イタリアになる。 搾りたての一本を、料理好きなあの人に。今年の“おいしい”を、贈ろう。 ZAHARA(ザハラ)/エキストラバージンオリーブオイル〈2025 NOVELLO〉250ml/イタリア・シチリア産(キャラモンテ・グルフィ)トンダ・イブレア種100%/無濾過/空輸便受賞歴:TRE FOGLIE・CINQUE GOCCE・Lodo 97.99pt _______________   モデナ生まれの記憶に残る一滴。 - AMARCOR(アマルコール)/有機アチェートバルサミコ・オロ  バルサミコ酢の本場・モデナで、有機ぶどうとワインビネガーだけを使い、木樽でじっくり熟成。酸味はまろやかで香りが豊か、とろみは高密度(1.33)。添加物は一切なし。JAS有機、イタリア有機、IGPと三拍子そろった安心感も。 季節のサラダやグリル野菜にひと回しすれば、マンマの味に。バニラジェラートやフルーツに数滴たらせば、リッチなドルチェに早変わり。カクテルの隠し味にちょっと垂らせば、香りがグッと立つ。“魔法の調味料”って、こういうことだと思う。 「アマルコール」とは、モデナの方言で「覚えている」の意味。一度味わえば、きっと忘れられない。お料理上手なあの人へのギフトに、これ以上の一本はないかもしれない。 AMARCOR(アマルコール)/有機アチェートバルサミコ・オロ250ml/イタリア・モデナ産JAS有機・イタリア有機農業・IGP認証/添加物不使用 _______________ シチリアとモデナの風土が香る2本。料理好きなあの人へ、あるいは自分のキッチンを少しアップデートしたい時にも。日々の食卓を少し特別にする、イタリアからの贈りもの。   マイプレジャーのギフトストアで、イタリアのアイテムをお買い上げの皆さまへ。ミラノのマンマから届いた、イタリアの端切れ布でラッピングしてお届けします。布の柄はお選びいただけませんが、どれもイタリアらしい個性をもつ一点もの。マンマへの尊敬と感謝を込めて。  
世界の端切れで、ギフトラッピング

世界の端切れで、ギフトラッピング

最初のヒントは、ミラノのマンマから。 陽気で都会的で、いつもエレガントなイタリアンマダムの“マンマ”が、小花柄の端切れ布で小さなギフトを包んでくれたのだ。 マンマは手芸が好きで、余った布を箱にためては、家族や友人への贈り物を気ままに包んでいるらしい。メルカートや街角の裁縫屋さんで見つけた、ごく普通の布のはずなのに、マンマの手にかかると、なぜだか急にミラノらしい洒落っ気が宿ってしまう。 縁は縢らず、切りっぱなしのまま。その無造作な美しさのなかに、時間の堆積と暮らしの呼吸が映る。“古いものを生かすセンス”が、ヨーロッパの家には確かにあるーーそんなことを気づかせてくれる手ざわりだった。 そこで、ふと思った。 「世界中の端切れで包んだら、きっと楽しい!」     My Pleasureでは、ミラノをスタート地点に、フランス、アフリカ、インド、ベトナムなどなど…...ご縁あって出会った世界中の端切れ布を、ギフトラッピングとして再生していきます。 ただ包むのではなく、布の記憶やその土地の空気ごと。世界の断片を、おすそわけするように。 まずは、オリーブオイルやバルサミコなど、イタリアのアイテムを選んでくださった方へ。マンマから託されたミラノの端切れ布で包んでお届けします。 どんな布で届くかは...どうぞお楽しみに。  
Vol.1 魔法の調味料

Vol.1 魔法の調味料

橋口麻紀さんの新連載【イタリアでグッと来た、暮らしをハッピーに彩るコトやモノ】。 Vol.1 は北イタリア・モデナから、魔法の調味料アチェートバルサミコをご紹介。
知と美をめぐる、新刊案内|『はじめての能』— 名作能50選を、物語と写真で味わう入門書

知と美をめぐる、新刊案内|『はじめての能』— 名作能50選を、物語と写真で味わう入門書

  はじめての“能”は、美しいビジュアルとともに。 千年を超える歴史を持つ、日本の伝統芸能・能。その静謐で奥深い世界に、「難しそう」「敷居が高い」と感じている人も多いはず。 そんな“能ビギナー”のために、まるで美術書のような一冊が登場した。その名も『はじめての能』(世界文化社)。 古典芸能の世界に一歩踏み込むのは、たしかに勇気がいる。だが本書は、その最初の一歩を美しいビジュアルとわかりやすい解説で導いてくれる。   構成は三章。「男の物語」「女の物語」「鬼・怨霊の物語」──たとえば、子を思う母の果てなき旅『隅田川』、美女に化けた鬼が舞う『紅葉狩』、愛と執念が激突する『道成寺』。人間の情熱と祈りを描いた50演目を、あらすじと舞台写真で立体的に紹介する。   舞台写真の美しさは圧巻。光と影が織りなす能面の表情、衣装の繊細な織り、舞台の張り詰めた空気感。   能を「難しそう」と感じる理由のひとつは、何が起きているのかがわかりにくいからだろう。だが、あらすじを知ると、ゆったりした動きの中に濃密なドラマが見えてくる。 “静の芸術”と呼ばれる能の内側には、激しく、人間らしい情熱が脈打っている。愛、執念、別れ、祈り…。古典でありながら、実は驚くほど現代的なテーマにあふれていることに気づかされる。 観る前に読めば、舞台への理解が深まる。観たあとに開けば、余韻がより豊かに残る。能との距離をぐっと近づけてくれる、まさに“観能のガイドブック”だ。     巻頭では、舞台構造や登場人物の役柄、装束の意味、鑑賞の作法までをわかりやすく解説。知らなくても楽しめるけれど、知っているともっと面白い。そんな“教養としての能”が、ここにある。 この秋、少し背筋を伸ばして「能」という文化と向き合ってみてはどうだろうか。   _______________ 書籍情報─ 『はじめての能』 著者:監修:多田富雄、写真:森田拾史郎発売日:2025年10月23日価格:2,200円(税込)判型:A5判・128ページ/オールカラー発行:世界文化社備考:『新版 あらすじで読む名作能50選』(2015年刊)の再編集版 _______________   著者プロフィール_ 監修:多田富雄 1934年、結城市生まれ。東京大学名誉教授。専攻・免疫学。野口英世記念医学賞、エミール・フォン・ベーリング賞、朝日賞などを受賞。84年、文化功労者。能に造詣が深く、『無明の井』『望恨歌』『一石仙人』などの新作能を手がける。著書に『免疫の意味論』(大佛次郎賞、青土社)『生命の意味論』『脳の中の能舞台』(以上、新潮社)『多田富雄全詩集 歌占』(藤原書店)ほか。2010年没。   写真:森田拾史郎 写真家。1937年、東京生まれ。武蔵野美術大学卒。能や狂言、歌舞伎など、古典芸能の舞台写真を中心に撮影。余分な演出や光を省いた独自の作風で、演者の呼吸が感じられる写真を撮り続け、アメリカ各地での個展開催の実績もある。写真集に『舞踏―森田拾史郎写真集』(ビイング・ネット・プレス)、『飛翔』『道成寺』『舞』(花もよ編集室)、写真提供に『能舞台 歴史を巡る』(建築画報社)など多数。