愛する人へ、祈るように。リトアニアの手仕事に宿る誠実さ。東京都庭園美術館「愛を紡ぎ、祈りを刻む―リトアニアの手仕事―」

愛する人へ、祈るように。リトアニアの手仕事に宿る誠実さ。東京都庭園美術館「愛を紡ぎ、祈りを刻む―リトアニアの手仕事―」


バルト海の東岸、深い森と湖に囲まれた国、リトアニア。この小さな国には、何世代にもわたって受け継がれてきた、豊かな手仕事の文化がある。
リネンを織り、木を彫り、日々の暮らしに必要な道具をつくる。その営みの中で、人々は使いやすさだけでなく、愛情や願いをかたちにしてきた。

東京・白金台の東京都庭園美術館で開催される「愛を紡ぎ、祈りを刻む―リトアニアの手仕事―」は、そんなリトアニアの手仕事に光を当てる展覧会だ。

紹介されるのは、暮らしを彩る織物や木工品、信仰にまつわる彫刻など。素朴で、どこか稚拙さが残る造形の数々から、この土地に息づく独自の価値観が浮かび上がる。


愛情をかたちにする、暮らしの道具。

リトアニアの手仕事で興味深いのは、生活の道具が、人と人との気持ちをつなぐ役割も担ってきたことだ。

たとえば「ヴェルプステ」と呼ばれる、糸を紡ぐための木製の道具。かつて男性は、愛する女性のために植物や幾何学模様を彫り込んだヴェルプステを贈ったという。日常の道具ありながら、その装飾には贈る相手への想いが込められている。

また、リネンのタオルを掛けるための木製の道具にも、手間をかけた彫刻が施されている。実用性と装飾性が自然に共存するその姿は、現代のピロダクトデザインにも通じるものがある。

特別な日のための美術品ではなく、毎日の暮らしの中で使われるもの。だからこそ、人々はそこに時間をかけ、心を配ったのだろう。


ヴェルプステ(糸を紡ぐための板)1861年 国立M.K.チュルリョーニス美術館


婚礼箱 20世紀後半 リトアニア国立博物館


タオル掛け 19世紀 リトアニア国立美術館


魚形たばこ入れ 1900年 リトアニア国立博物館


森の記憶と、祈りの造形。

リトアニアの文化を語るうえで欠かせないのが、自然との深い結びつきだ。ヨーロッパで最後にキリスト教を受け入れた国のひとつであるリトアニアには、古くからの自然信仰とキリスト教が重なり合う、独特の精神文化が育まれてきた。

道端や村の入り口に立つ木製の十字架、祈りのためにつくられた聖像。そこに施された太陽や植物などの装飾には、自然への畏敬と、人々の願いが映し出されている。

とりわけ木彫の造形は興味深い。素朴な素材を用いながら、彫りの深さや輪郭、装飾のリズムによって、それぞれに異なる表情を生み出している。

長い歴史の中で、幾度も政治的な支配や文化的な抑圧を経験してきたリトアニア。手仕事は、暮らしを支える技術であると同時に、自分たちの文化を守り伝える手段でもあった。



悩めるキリスト 19世紀 国立M. K. チュルリョーニス美術館


夜明けの門の聖母 19世紀 国立M. K. チュルリョーニス美術館


アール・デコと手仕事。異なる価値観が出合う場所。


そして今回、もうひとつ注目したいのが展覧会の舞台だ。会場となる東京都庭園美術館の本館は、1933年に竣工した旧朝香宮廷。フランスのアール・デコを取り入れた建築と室内装飾で知られ、細部に至るまで当時の美意識が息づいている。

一方、リトアニアの手仕事は、名もな気職人や暮らしを営む人々によって育まれてきたもの。

アール・デコの空間でリトアニアの手仕事を眺めることは、ものの価値を、いつもとは少し違う角度から見つめ直す機会にもなりそうだ。

尊いものは、必ずしも特別な場所から生まれるわけではない。

誰かのために彫った木の模様や、時間をかけて折り上げた一枚の布。そんな小さな営みの積み重ねが、やがて一つの文化になっていく。

この冬は、遠いリトアニアの暮らしに思いを馳せながら、手仕事の静かな造形に触れてみたい。


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INFORMATION

愛を紡ぎ、祈りを刻む―リトアニアの手仕事―

会期:2027年1月16日(土)〜3月28日(日)
会場:東京都庭園美術館(本館・新館)
住所:東京都港区白金台5-21-9
開館時間:10:00〜18:00
*3月19日(金)、20日(土)、26日(金)、27日(土)は20:00まで開館(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(3月22日は開館、翌23日は休館)
*日時指定予約制 
展覧会公式サイト

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