「そのままでいいと思えた時」

「そのままでいいと思えた時」

これまでのコラムで、

植物のことや、整えるという感覚について書いてきました。

 

急がせないこと。

足しすぎないこと。

無理をさせないこと。

 

そんな考え方は、

日々のサロンワークの中で

少しずつ形になってきたものです。

 

今も毎日、

たくさんのお客様と向き合っています。

 

以前よりも、

むしろ働いている時間は長いかもしれません。

 

ただ、

仕事の密度は変わりました。

 

日々たくさんの方と向き合いながらも、

一人ひとりの髪との関係は、

以前よりも深くなっているように感じます。

 

その違いは、

自分の中ではとても大きなものです。

 

 

バッキンガム宮殿の近くの公園

 

美容師になると決めたとき、

私は日本のサロンには就職せず、

ロンドンに渡りました。

 

ヴィダルサスーンで学びながら、

世界的に活躍するヘアスタイリスト、

ピーター・グレイのもとで

仕事に触れる機会をいただきました。

 

 

ファッションショーや、

海外のファッション誌の撮影など、

現場では、

強く作り込まれたヘアスタイルも多くありました。

 

髪を形として完成させる、

その精度の高さや表現力は、

今でも強く残っており、私の原点とも言えます。

 

 

 

ただ同時に、

その中で感じていたのは、

「何を足すか」ではなく、

「どう引き出すか」という視点でした。

 

つくり込むからこそ、

どこを残すのかが重要になる。

 

整えすぎないことで、

その人の持っているものが

自然と立ち上がってくる。

 

その感覚は、

今でも自分の中に残っています。

 

 

ロンドンで過ごす中で、

もう一つ印象的だったのは、

人それぞれが自分の素材をそのまま受け入れていたことでした。

 

髪質も、骨格も、色も、

一人ひとり違う。

 

でも、それを変えようとするのではなく、

そのままを活かしている。

 

それが、とても自然に見えました。

 

 

 ロンドンの家のお庭

 

その後、日本に戻り、

サロンワークを続けていく中で、

少しずつ違和感が積み重なっていきました。

 

きれいにするための施術なのに、

髪に無理がかかっていくこと。

 

整えるはずの仕事が、

どこかで頑張らせているように感じる瞬間。

 

それでも当時は、

それが当たり前だと思っていました。

 

 

表参道にサロンをつくったのは、

その違和感から少し距離を取りたかったからです。

 

たくさんのお客様と向き合いながらも、

ひとりひとりの髪とちゃんと向き合える距離でいたいと思い、

2席だけの小さなサロンをつくりました。

 

 

振り返ると、

ロンドンで感じたことと、

その後に積み重なった違和感は、

どこかで繋がっていたのだと思います。

 

つくり込みすぎないこと。

無理をさせないこと。

その人の中にあるものを引き出すこと。

 

 

今、

「整える」という言葉を大切にしているのは、その延長線上にあります。

 

変えるのではなく、整える。

足すのではなく、引き出す。

 

これからも、

大きく変わることはないと思います。

 

ただ、

髪と向き合う時間が、

少しでも自然で、

無理のないものになるように。

 

そんなことを考えながら、

日々サロンに立っています。

 

 

またロンドンで過ごした時間の中で、

いくつかの不思議な巡り合わせがありました。

 

そのひとつひとつが、

今の自分の仕事や、

美容師としての在り方に、

静かにつながっているように感じています。

 

 

そして、

こうした経験の積み重ねの中で、

「整える」という考え方は、

サロンの中だけではなく、

日々のケアの中にも

必要なものだと感じるようになりました。

 

無理に変えるのではなく、

その人の本来の状態を引き出していくようなものを、

形にできないか。

 

そう考えたことが、

ヘアプロダクトをつくるきっかけになっています。

 

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