この秋、恋はナポリの港からやってくる。ロッシーニの洒脱な喜劇『イタリアのトルコ人』
新国立劇場の新シーズンは、ロラン・ペリー演出『イタリアのトルコ人』から。
恋をしたい妻と、異国からやってきたプレイボーイ。振り回される夫に、忘れられない元恋人。まるで少し昔の恋愛映画のような人間模様を、ロッシーニは軽やかな音楽とユーモアで描いた。
新国立劇場の2026/2027シーズンを開くのは、ロッシーニのオペラ・ブッファ『イタリアのトルコ人』。『セビリアの理髪師』ほど広く知られてはいないけれど、恋の駆け引きと洒脱なアンサンブルに満ちた、知る人ぞ知る喜劇だ。
今回、とりわけ注目したいのがロラン・ペリーの演出。
19世紀のオペラが、20世紀のポップカルチャーへ

遊び心とスパイスの効いたセンスで、上演のたびに話題をさらってきた彼が今回選んだモチーフは、イタリア発祥の"フォトノベル"。1950年〜1970年にかけて人気を博した、写真と吹き出しで綴られるメロドラマ風の恋愛小説だ。
舞台では、結婚生活に退屈しロマンス小説に夢中になるヒロイン、フィオリッラの空想と現実が入り混じる。登場人物たちは二次元の物語へ入り込み、また現実へと戻ってくる。
19世紀に書かれたオペラが、20世紀のポップカルチャーを経由して、現代の舞台へ。そんな少し奇妙な時間旅行こそ、このプロダクションのおもしろさかもしれない。
演出・衣裳を手がけるロラン・ペリー、美術のシャンタル・トマによって、作品世界がどのような色彩とフォルムで立ち上がるのかにも注目したい。
恋のゲームは、ナポリから。

物語の舞台はナポリ。
物語の主人公フィオリッラは、夫ジェローニオとの単調な毎日にうんざりしている女性。そこへナポリの港に降り立つのが、プレイボーイのトルコ王子セリム。二人の視線が絡んだ瞬間から、堅物の夫ジェローニオ、セリムに未練を残す元恋人ザイダ、さらに彼女を慕うナルチーゾまで加わり、恋模様は見事なほどにもつれていく。
そして、その騒動を少し離れたところから眺めているのが、詩人プロスドーチモ。彼はこの騒動を「上出来な喜劇のネタ」とほくそ笑みながら、陰でそっと糸を引いていく。
恋愛喜劇でありながら、物語をつくることそのものを遊んでしまう。そんな知的ないたずらも、ロッシーニならではの魅力だ。
旬の歌い手たちが揃う、この上ない顔合わせ
ヒロイン、フィオリッラを歌うのは、24/25シーズン《夢遊病の女》に彗星のごとく登場し、一夜にして評判をさらったソプラノ、クラウディア・ムスキオ。相手役のセリムには、パリ・オペラ座やロッシーニの聖地ペーザロで活躍する若手、アレハンドロ・バリニャス・ビエイテス。そして夫ジェローニオ役には、ブッフォ(喜劇的な役どころ)の世界的名手パオロ・ボルドーニャが名を連ねる。
指揮台に立つのは、イタリアの俊英アレッサンドロ・ボナート。「Forbes Italia」誌が選ぶ2025年「世界を変える30歳未満」にも名を連ね、今夏のロッシーニ・オペラ・フェスティバルでもみずみずしい音楽性で喝采を浴びたばかりの逸材だ。
軽快なリズム、華やかなアンサンブル、登場人物たちのすれ違いを彩るロッシーニの音楽を、どのように舞台上で躍動させるのかにも期待が高まる。

重厚な名作を鑑賞するというより、ファッションや映画を見るように、色彩やユーモア、人物たちの洒落た駆け引きを楽しむ。『イタリアのトルコ人』は、そんな気軽な入り口からオペラの魅力に触れられる一作。
ロッシーニの音楽はもちろん、ポップカルチャーを思わせる演出、恋愛コメディとしてのテンポ、そして劇中劇めいた構成の遊び心。
オペラに少し距離を感じている人にこそ、こんな一作から劇場の扉を開けてみるのもよさそうだ。
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INFORMATION
日程:2026年10月2日(金)、4日(日)、7日(水)、10日(土)、12日(月・祝)
会場:新国立劇場 オペラパレス
指揮:アレッサンドロ・ボナート
演出・衣裳:ロラン・ペリー
美術:シャンタル・トマ
出演:アレハンドロ・バリニャス・ビエイテス、クラウディア・ムスキオ、パオロ・ボルドーニャほか
公演情報:https://www.nntt.jac.go.jp/opera/ilturcoinitalia/
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