葉山の幸福なデスティネーション。オーナー桐島ローランドさんが語る偶然と縁が導く「Felicity」での新たな挑戦
カメラ、バイク、CG。常にカルチャーの最前線を「体当たり」で切り拓き、趣味を究めて仕事にしてきた人、桐島ローランドさん。そんな彼がいま、情熱のすべてを注いでいるのが、神奈川県・葉山のロードサイドに佇むカフェ『Felicity(フェリシティ)』だ。 「縁に導かれた偶然で」と笑うローリーさん。ニューヨーク、東京、そして世界中の砂漠を走り抜けてきた彼が、なぜいま、葉山でコーヒーを焙煎しているのか。その経緯を辿ると、そこには「縁」という名の、不思議な一本の線がつながっていた。 葉山への移住、そしてバイクとつながる再会 移住のきっかけは、コロナ禍という予期せぬ天災だった。 「もともとは息子を連れてアメリカに住むつもりで家も買っていたんです。でも、パンデミックで計画が白紙になってしまった」。 導かれるように姉の桐島カレンさんが住む葉山へと拠点を移したローリーさん。当初はアメリカから送り返される荷物を保管する倉庫を探していた。そこで出会ったのが、この物件だった。 そこは、2023年まで40年近く続いた伝説的なカスタムバイクショップ『幸福商會』の跡地。70年代、中国製の「幸福」というヴィンテージルックなバイクの輸入から始まり、後に英国車カスタムの聖地となった場所だ。 昔からトライアンフなどの古いバイクが好きだったローリーさん。『幸福商會』が本牧にあったことは知っていたが、移転先が葉山だとは知らなかったのだという。 この場所を訪れた瞬間、「倉庫にするにはあまりに惜しい空間」だと感じた。この場をいかにして活かすかを考えた結果、自分で購入しカフェにするという決断に至ったのだと。 幸福を意味する英語「Felicity」を店名に冠すことで、かつての聖地への敬意を払い、ローリーさんの新しい挑戦が始まった。 コーヒーに宿る「現像」の再現性 「カフェをやりたかったわけではない」と言いながらも、一度足を踏み入れれば徹底的に突き詰めるのがローリー流だ。そのこだわりは、カフェの心臓部である焙煎機に現れている。導入したのは、コーヒー界のロールスロイスと称されるドイツ製の銘機「Probat(プロバット)」。 「コーヒーをやっている人がみんな夢見るマシンです。思い切って現金で買いました」というエピソードに、並々ならぬ覚悟が滲む。 ローリーさんにとって、焙煎は「写真の現像」と同じ感覚だという。「カメラマンは温度や時間にシビア。焙煎も現像や料理と似ていて、データをもとに味を追求していく。僕のマシンはデータドリブンで、一度成功した焙煎カーブを完璧に再現できる。でも、全く同じ数値なのに味が変わることがある。そこが魔物であり、ハマる理由なんです」とコーヒーについて語るときのローリーさんは少年のように眩しい表情をする。 現在、11種類の豆を自ら焙煎。とりわけ力を入れているのがブラジルだ。高品質なハンドピックの豆を、素材の甘みが最も引き立つ「シティロースト」で仕上げる。 エスプレッソマシンはイタリア最高峰といわれるヴィクトリア・アーデュイノ社のブラックイーグル・マーヴェリックを導入し、こだわりの一杯を提供 「良い豆をダークにしすぎるのはもったいない。芯まで熱を入れ、いかにえぐみを出さずに甘みを抽出するかを研究している」。その語り口は、職人のそれである。 デスティネーションとしてのキラーコンテンツ 駅から遠く、海も見えない。そんなロードサイドの立地で、いかに人を呼ぶか。ローリーさんが仕掛けたのは、単なる飲食店を超えた「デスティネーション(目的地)」としての体験だ。 試行錯誤を重ねて編み出したレシピとこだわりの材料を使った定番メニュー「サーモンワッフル」。 新商品のラズベリーデニッシュラテ。 「わざわざここに来る理由=キラーコンテンツが必要なんです。火曜の朝はピラティスをやったり、ゲスト講師をお呼びして、写真講座や焙煎教室、編み物教室、個展もやっています。やるなら徹底的に一番いいものを集めています」 ...