全員違って、全員特別。想いが紡いだボーダレスなTシャツの誕生秘話
ギフトを贈ることが増えるこれからの季節。せっかく贈るのであれば、ストーリーや想いのあるもの、ずっと大切に使いたくなるようなものを贈りたい。
今回紹介するのは、美容室「LIfT」のBAMBI.さんと「Borderless kids」の高橋奈津子さんの素敵な取り組みから生まれたTシャツ。そこには「髪質がひとりひとり違うように、脳の特性(つくり)もひとりひとり違う。ひとりひとりが本来持っている特性や性質を最大限活かしてほしい」という想いが込められています。BAMBI.さんと高橋さんに誕生までのストーリーをお話ししてもらいました。
同じ想いでつながる縁
―表参道で美容院「LIfT」を営むかたわら、「today for MAY」というヘナ(植物由来染料)のヘアケアブランドも手掛けているBAMBI.さんと、発達の特性を持つ子どもたちのためのおもちゃやウエアを製作・販売する「Borderless kids」の高橋さん。お二人の出会いのきっかけは何だったのでしょうか?
BAMBI.さん:実は以前、高橋さんとは原宿の美容室で一緒に働いていたことがあるんです。僕がスタイリストで、高橋さんはプロダクトを担当するチームだったので、当時はほとんど接点がなかったんですよね。
高橋奈津子さん:そうなんですよね。BAMBI.さんのサロンに、私のママ友の仕事仲間が通っていて、その方の髪の毛がすごくきれいだったんですよね。よく聞くとBAMBI.さんの美容院でヘナをしてもらっているということがわかって。そんな不思議な縁から再会しました。ヘナのお話も聞かせてもらって、「Borderless kids」のポップアップショップで取り扱わせていただくようになったんです。
―今回一緒に取り組みをすることになったきっかけは何だったのでしょうか?
BAMBI.さん:僕がヘナを扱うようになったきっかけにも関連してくるので、そこからお話ししますね。長年、美容師をしているなかで、お金をかけて美容室に通っている人ほど、パーマ剤やカラー剤で髪が傷んでいたり、体調が悪くなっていたりしているのをずっと見てきました。ある時期から、「僕はほんとうにきれいにしているのだろうか?」「僕がやっていることはこれでいいのだろうか?」と考えるようになりまして…。
そこから調べたり、考えているうちに、人それぞれが持つ髪質や特性を生かして背中を押してあげる仕事が美容師なんじゃないかと行き着いた。そのときに、手助けしてくれるのがヘナだったんです。僕がヘナを扱うベースにある考えが高橋さんの「Borderless kids」の活動に共鳴したのがきっかけです。
高橋さん:「人それぞれの特性を活かす」というのは私の活動においてもすごく大切にしていること。そう考えるようになったきっかけは自閉症の長男です。自閉症や発達障害は脳の特性なのですが、自閉症や発達障害に限らず脳って実はみんな違うはずで。本来、みんな特性は違うのに、つい「普通」にあわせようとしてしまっているな、と。息子と過ごすなかでそれに気づかされたんです。
もちろん息子は、生活する上でフォローが必要ではあるのですが、人の笑っている顔がすごく好きな子で、笑顔を見るとぴょんぴょん跳ねて喜んでたりして。その特性というのは、このままでいて欲しいなと思うんですよね。
みんな違うんだから「普通」に合わせなくてもいいんだよということを知ってほしいと思い、「Borderless kids」の活動をしています。
BAMBI.さん:持っている特性の違いを受け入れられるボーダーレスな社会になっていくべきだという高橋さんの考えを聞いて、自分自身の考えに通じるなとすごく思ったんです。「LIfT」というサロンの特徴もまさにボーダレスで。90歳近い方もいらっしゃるし、赤ちゃんや幼稚園の子も来ます。男女、ジェンダーレスの方も来れば、アーティストも主婦の方もいる。日本各地、海外からも来ていただけているので、ボーダレスな社会を目指していくにはとっておきな場所じゃないかと思っています。
今までは、サロンやヘアケアアイテムで、自分の持っている髪質を生かすことを後押ししていましたが、それを前向きに後押ししてポジティブに転換していく活動に力を入れていきたいと考え、高橋さんと一緒になにかできないかとお話をさせてもらったんです。
みんなの想いが一致して生まれた刺繍
―それで完成したのが今回のTシャツなのですね。まずは描かれている絵について教えていただいてもよいでしょうか?
BAMBI.さん:僕らの原点となるであろう一発目の取り組みなので、僕たちをつなげてくれたヘナを打ち出すことにしました。そのメッセージとして、インド人の女性がヘナを摘んでいるシーンを描いてもらいました。
―このイラストはどなたが書いているんですか?
BAMBI.さん:うちのサロンのカードも描いてくれているターニャというイラストレーターの方にお願いしました。韓国系のウズベキスタン人で、イギリスで絵を学び、今は日本で生活している方なので、彼女自身にもボーダレスなバックボーンがあるんです。なによりも絵が大好き。電車でもカフェでも、髪を切りにきてもずっと絵を描いているような、純粋に絵が好きな方なんです。彼女に「ヘナを摘んでいるインド人の女性を描いて欲しい」とお願いしました。
―すごく表情が素敵な女性ですね。この絵はすぐに出てきたものなのですか?
BAMBI.さん:実は何度か書き直してもらったのですが、これは最初に書いてもらった絵なんですよね。背景を入れて欲しいとかいろいろ伝えていたらターニャの良さがなくなっちゃって。でも、改めて見てみたところ最初の絵がいいねとなりました。ターニャは「これでいいの?」って驚いていましたが、ターニャのピュアで繊細な魅力が出ているのはこれだなと。
もともと彼女からTシャツを作りたいという話をずっと聞いていたので、僕としても一緒にできてうれしかったですね。まさか刺繍だとは思っていなかったみたいですが。
―Tシャツにすること、刺繍で描くことは最初から決めていたことだったのですか?
高橋さん:家に置いておくものよりは身につけられるものがいいということと、性別問わずに着られるものがよかったのでTシャツにしました。最初はプリントにしようと考えていたのですが、いくつかの印刷会社に話をしてみてもどこかビジネスライクな感じがあって。私たちの温度感と合わなかったんですよね。
ちょうどもう少しインパクトも欲しいよねという話も出ていた頃に、障がいや精神疾患があり社会復帰を目指す方々が働く福祉事業所にお願いできないだろうか?というアイデアが出たんです。印刷は難しかったのですが、刺繍ならできそうだということで、刺繍で進めようと。
BAMBI.さん:こういうコラボレーションのTシャツはよくありますが、多くがプリントです。刺繍だと趣が変わるし、きっとかわいいよねと盛り上がったんですよね。
高橋さん:横浜にある「ウイアー」という就労事業所の方にコンセプトをお伝えしたところ、すごく共感してくださってご一緒することになりました「ウイアー」の方たちは私たちがご依頼したことを喜んでくださったのがすごく印象的でした。社会復帰を目指す利用者さんの対価に直接つながるし、励みにもなるので本当にありがたいですとおっしゃってくれて。
こういったプロセスの段階においても、「普通」にしたくてもできない方たちにフォーカスを当てることができ、ボーダレスな取り組みになったなと感じています。
BAMBIさん:僕たちの活動は、支援をしてあげる、施してあげるということではなく、関わる人みんなにとってWin-Winなかたちになることを目指しているので。どんな特性を持っていても、社会の一員として認められて一緒に産業活動していけるのが理想だよね、と。
Tシャツの刺繍が完成したとき、事業所の方々が「今から持っていきます!」と紙袋抱えて持ってきてくれたんですよ。自分たちの手で作ったものを、早くみてもらいたいという気持ちがすごく伝わってきましたね。一緒にやってよかった!とすごく思いました。
高橋さん:今回のこの取り組みは私にとってもすごく大きな経験になりました。「Borderless kids」の活動でも、就労事業所の方々と何か一緒にやっていきたいなと、今ちょっと考えているところです。
自分自身を生きてほしい。Tシャツを通じて伝えたい想い
―完成したTシャツを見たときの気持ちはいかがでしたか?
BAMBI.さん:うれしかったです!刺繍は本当に何度も調整してもらっていたんですよね。肌の色をどうしようとか、線を粗くしようかとか、刺繍の密度を濃くするか、顔の表情をどうやったら表現できるかと細かくテストをしてもらっていたので、ついに完成したかと感慨深いものがありました。
高橋さん:ターニャの絵の魅力を刺繍で表現するのが本当に難しくて…!かなり苦戦しましたよね(笑)。葉っぱも全部塗ると重くなるので、「ウイアー」さんに刺繍の技術で調整してもらって、ポイントで濃淡をつけてもらって。できたときは「こうなるんだ!」って本当に感動しました。
当初の予定より完成が遅れたのですが、締切間際にありがちなピリピリした空気がなかったんですよね。息子と暮らすなかで、自閉症の子たちはパニックになると切り替えるのが大変というのは知っていたので、利用者さんにご負担をかけないような進行にしようということは考えていましたが、みんなで支え合える空気があって、すごくいいグルーヴ感の中で進めることができました。
BAMBI.さん:この期日までに何個納品というかたちではなく、出来上がり次第、都度納品にしてもらったんですよね。工夫で乗り切れることはたくさんあると学びましたよね。
「ウイアー」の担当者さんの空気づくりも学びになりました。作業所にもうかがわせていただいたのですが、作業している利用者さんに「がんばってるね」と声かけられていて。みなさん本当によろこんで「もっとがんばるぞ!」となっている。ああいう声掛けとか、気配りってすごくいいですよね。できないところを指摘するのではなく、「頑張っているね」「すごいね」と声をかけあえたらすごく生きやすくなるなと思いました。
高橋さん:本当にそうですよね。そういう空気が当たり前になれば、障がいのある方もインクルーシブされる社会になるのかなとか思いました。
仕事の進め方も「こうじゃなきゃいけない」ということはなくて、みんなが理解し合うことができれば、ビジネスが円滑に回るのだと実感しました。工夫したり、助け合ったりすることで、ビジネスって成立させられるんだというのは、励みになったし、大きな自信になりましたね。
自閉症の方はもちろん苦手なこともあるけど、「これはNG」といったルールを守ることは得意なので、仕事がすごく丁寧なんです。最近はアパレルの会社さんの検品などを担当する事例もあるようですが、まだまだ彼らの特性を活かす方法は知られていないので、今後の活動につなげていきたいなと考えています。
―完成して、ポップアップショップでのお披露目もはじまっていますが、反響はいかがですか?
BAMBI.さん:けっこうありますね。お客さんにこの話をしたら、まだ実物を見ていないのに「2枚買います!」という方もいました(笑)。この取り組みの話をすると、「実は私の子どもに障がいがあって」とか「妹が自閉症で」というお話しをしてくださることも多いです。みなさん、自分にもなにかできることがあればと思ってはいるけど、何をやったらいいかわからないようで。このTシャツからそういった活動に興味を持ってくれたり、自分にはなにができるだろう?と考えるきっかけになったらうれしいですね。
高橋さん:私は息子が自閉症であることをオープンにしているので、「実はうちも」と話してくださる方は結構いますね。言いたくないのに言うことではないですが、話せる場面や考えるきっかけが生まれたらいいですよね。
反響については、私の周りからも好評です。「today for MAY」のヘナにも興味を持ってくださる方も多くて。やっぱり根本の考えが一緒なので、人もつながっていくなと感じています。
―最後に、このTシャツを通して伝えたいことを教えてください。
高橋さん:「みんなそれぞれの特性がある」ということを、みんなが認識することができたら、もっと生きやすい社会になるんじゃないかという想いは一貫しています。やっぱり自分以外に自分はいないので。嫌だなって思う部分も自分だし、長所と短所は表裏一体。いかにして自分自身を受け入れていくかというのが大切だと思うので、今回のTシャツが生まれたプロセスや背景を知っていただいて、着ていただくことで、自分自身を生きるということを考えるきっかけになったらうれしいですね。
BAMBI.さん:ちょうど先日、テレビを見ていて、まさに自分が言いたいことを表現しているフレーズがあって。言い合いをしている人の横を通った人がさっと「Everyone is different, Everyone is special」と言っていて。そうやって他者を認められる世の中になったら本当にハッピーですよね。国境も、障がいも、男女も関係ない世界。ボーダレスな社会を目指す僕らの原点のTシャツです。ぜひ、手に取っていただいて、着ていただいて。全員違って全員特別というメッセージを受け取っていただけるとうれしいです。
文=花沢亜衣
プロフィール
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BAMBI. / LIfT オーナーヘアスタイリスト
日本で美容師免許を取得後、ピーターグレイ氏に師事し、アシスタントとしてロンドンで経験を積んだ後、帰国。
都内の某有名大型サロンで11年間働いた後、表参道に2席のみの美容室をオープンする。
美容業界で感じた矛盾や違和感を解決するために、髪の本来の美しさを引き出すとされるヘナに着目し、初の製品としてヘナシャンプー&トリートメント開発・ローンチする。
ロンドンから日本、そして2席のサロンへとよりコアに進む経験を経て感じた美容業界に関する新たな視点や気づきを発信していきます。
https://todayformay.net/
Instagram:@todayformay
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高橋奈津子/ Borderless kids
大手アパレルを経て、人気ヘアサロンのオリジナルヘアケアプロダクトに関わる。出産を機に退職。中度知的障がいを併せ持つ自閉症スペクトラムの長男(6歳)とわんぱく盛りの次男(4歳)を育児しながら、2019年に輸入おもちゃの販売からBorderless Kidsをスタート。2021年、新たにウエア展開。
https://borderless-kids.com/
Instagram:@borderless_kids
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